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プロフィール
キャピタル・パートナーズ証券
三原淳雄はキャピタルパートナーズ証券の顧問を務めています。
 

2009年06月04日
三原 淳雄

なめられた日本
 

 オバマ大統領がワシントンで、GM倒産の会見をしている時に、財務長官のガイトナーは何と北京にいた。GMが倒産し国有化されるという大事な時に国を空けたということは、GMよりもっと大切な用事があったからだろう。 
 オバマ政権にとってGM騒ぎ後のアメリカを考えれば当たり前のことだが、景気対策、金融システム救済のための膨大な政府支出のおとし前を、どこでどうつけるのかが市場の次の焦点になってくるのは自明の理。金利上昇やドル安は何としてでも防ぎたい筈である。 
 一難さってまた一難、降りかかる火の粉を防ぐ手段として、ガイトナー財務長官は米国債の説明に北京に出掛けたのである。 
 つまり米国債のセールスを兼ねて、大口債権者である中国のご機嫌伺いということなのだが、中国人は日本人ほど甘くない。かねてよりアメリカの通貨政策や金融政策に関して散々あちこちで厭味を連発し、牽制球をしつこく投げていた。 
 基軸通貨としてのドルをどうするのか、バスケット方式やIMF通貨みたいなものにしたらどうかなど、ことある毎に「米国債を売るぞ」と恫喝し、アメリカからの人民元引き上げの圧力を跳ね返しているのが中国である。 
 そのガイトナー、北京大学の講演でぬけぬけと「米国債は世界でいちばん安全で信用出来る」とスピーチして、満場の失笑を買ったとか。その場は何とか収まったようだが、いつの間にやら中国は長期債の比率を下げ短期債に切り替えつつある。 
 これで期日がきて乗り換えの度に何かを要求するつもりだろう。天安門事件からたった20年、ついこの前まで共産主義だったのだから、何ともしたたかな国である。 
 共産主義から資本主義の権化へと、見事に変身出来る13億人の民が、日本の目の前に存在しているのは何とも恐ろしいことである。 
 それに引き換えこの国のナイーブさには言葉も出ない。中国に一位の座を取って代えられるまで、ただひたすら米債を買い続け黙って持っているだけ。それをネタにしてアメリカと遣り合うどころか、時価会計だ郵政民営化だ保険や金融の自由化だのと、言われる度にほいほいと、これがグローバルスタンダードだと唱えて従うだけだったはずではないか。その間ドルは下げ続け資産は目減りしているのだが、それに対して文句をつけたなど聞いたこともない。 
 中国をそっくり見習えと言うつもりはないが、世界情勢の変化に対応する知恵を身につけておく必要はあるだろう。 
 いまは世界中で価値感が大きく変わろうとしている時であり、変化の対応を誤れば国の存亡の危機になる懸念もある。 
 じっと頭を低くしていれば、災難も変化も通り過ぎていくというわけにはいかない大変な時代なのである。 
 
変わる価値感 
 
そのアメリカだが、流石のアメリカ人たちもノー天気に「ウィー アー ナンバーワン」と言っていられる時代ではなくなったことを感じ始めているふしがある。もともとアメリカ人には弱者には優しいが、対等もしくは強い相手は徹底的に叩いてくるきらいが強い。 
 戦後からいまに至るまでの日米関係を振り返ってみれば、それがよく見えてくるはずであり、ジャパンバッシング ジャパンパッシングと変化してきた。ヒラリー国務長官が真っ先に日本に来てくれたなどと、まだナイーブなままでいるから、今回のようにガイトナーは中国には国債を売らないで下さい、もっと買って下さいと辞を低くして訪ねているのに、日本には何の挨拶もなかったのが好例である。日本もなめられたものである。 
 日本発の思考で世界を見ていれば、今回のGMの騒ぎも日本車にはチャンスと考えるかも知れないが、世の中そんなに甘くない。 
 当のアメリカ人たちの価値感がいまや大きく変わりつつあり、クルマだって大きく格好がいいけどガスはガブ飲みのクルマから、安くて恰好よくて高品質なものへと変わりつつある。ビバリーヒルズの高級住宅街につきものだったベンツやキャデラックの姿はもはやない。代わって目につくのはヒュンダイの高級車「ジェネシス」だったり、プリウスだったりと彼らの価値感も代わっているのである。今年の「カー オブ ザ イヤー」は何とヒュンダイの高級車「ジェネシス」だった。 
 またシリコンバレーでは恐るべき電気自動車テスラが出て来た。45分の充電で400キロ近く走り、ダッシュするスピードもポルシェなみとか。発表後たちまち1000台以上の予約が入ったらしい(5万ドル)。 大株主は何とベンツである。 
 いまのところまだリチウム電池などでは日本は優位にあるが、いまのうちに手持ちのドルや技術をベースにもっと強気の外交に転じるとか、長期的な国益に繋がる、技術やプロジェクトを世界に高く売る方法などを真剣に考えるべきだろう。 
 GMの没落から学ぶべきことは沢山あるが、最も学ぶべきことは「判かっちゃいるけどやめられない」という一世を風靡した植木等のスーダラ節的な経営がGMを潰したという事実のである。 変らなければGMだって潰れる時代なのだ。 
価値感を変え、新たな発想が求められていることは判っているのだから、だったら自分も変わるべく行動する時であろう。