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三原淳雄はキャピタルパートナーズ証券の顧問を務めています。
 

2009年07月24日
三原 淳雄

一票の重み
 

 かねがね投票にも行かず政治家の悪口をいい、いざ自分に困ったことがおきると、今度は一転して国は何とかしろと,政治家に助けを求めるやつらのなんて多い国かとその後進性、幼稚性を憂えていたが、こんな連中にぜひ読ませなければと感じ入った記事にお目にかかった。(東京新聞7月23日朝刊 「一票の価値」) 
 
 国会議員選挙を判りやすく言えば「我々の払う税金の使い道を選ぶ人を選ぶ」ことであり、そのためには一体一票がいくらの価値なのかを知っておく必要がある。 
 この記事によれば一票はハイブリッド車一台分の約320万円にもなるのだそうだ。つまり毎年の国家予算は約80兆円、任期の4年分は320兆円。国民ひとり頭で割ると320万円と結構大きな数字となるのだから、今回は気合を入れて税金の使われ方を注意深く見定めなければなるまい。 
 
 戦後焼け跡から始まった経済再建は民間には金も無く、企業もまだ税金を負担する力が弱く、世銀などから借金せざるを得ない事情もあって、まず政治が方向を決め、国家再建の意欲に燃えた優秀な官僚たちが、国益を優先してその使い道を考え配分していった。そして奇跡と呼ばれるほどの復興を遂げたのだが、どうもその後がいけない。 
 
仇となった成功体験 
 
 いつの間にか世界に冠たる経済大国になったのだが、奇跡をもたらした政治や官僚システムを残したまま経済だけは大きくなってしまった。こども服を着たまま図体だけは大人になったようなもので、アチコチ綻びも出てきたのだから服を誂え直すのが本来の改革なのに、取り敢えず目先を繕うだけの郵政改革、福祉改悪で終わり何とも変な国の形になってしまったというのが現状である。なまじ成功体験がすばらしかっただけに、変えられなかったのである。 
 
 あのときに郵政だけ変えればすむといった生易しい変化ではないと、大声で訴えるのが本来の政治の役目のはずだが、小泉、竹中組に問題を矮小化されうまく言いくるめられ、それが改革だとみんなが信じてしまったことはなんとも残念なことである。 
 あれから4年、今回ばかりは国民も何とか自分たちでやれることはないか、それは政治を変えることだ、そのためには選挙に行って投票しなければと考える人たちが増えつつあるのは何より嬉しい変化である。 
 
 先日もタクシーの運転手さんから「お客さんも選挙に行かれるのでしょうね」と釘を刺されたし、政治の話を振られたりする機会が多くなった。いいことだ。 
 これまでなら「行っても行かなくてもどうせ変わらないのだから」といった風潮が強かったが、320万円にも値するとわかれば折角のチャンスを簡単に捨てる人はまずいないだろう 
 これから各党の公約(マニュフエスト)が出てくる。 じっくり吟味して320万円をどこに投資するかを考えてみるのも選挙の楽しみといえなくも無い。東京新聞はいいところに目をつけてくれたものだ。大いに触れて回ろう。 
 
 ところで街角景気判断などを見ているともうすっかり景気に関しては安心観が出てきているような意見もあるが、これは世界的な景気対策のカンフル剤的な効用の部分が大きい。それが忘れられているのではないかという懸念も残るのも事実。 
 銀行貸し出しはまだ世界的に低調だし、不良債権処理もまだ終わったわけでもない。リーマンショック直後のいわれ無き過度の悲観の修正場面が一巡した後、どんな世界が開けてくるかについてはまだ不確定な要因が多い。 
 あのオバマ大統領もこのところ与党対策が必要になっているように、いよいよ正念場が始まっている。警戒しながら楽観論で世の中を見るといったスタンスをとる時のような気がしている。老婆心ですめばいいのだが。 
 
 余談だが今回の金融危機を惹き起こした犯人扱いすらされているアメリカのビジネススクールにも変化が現れ始めたようだ。新入生には「思わず雇いたくなる人」をベースに入学許可を出す学校が増えているとか。ウォール街でよく見かける高慢なカミソリ型よりさわやかで人柄のいい人間がこれから求められると読んでいるのだろう。初任給の高さばかりが基準になっていたBスクールのランキングにも変化が出てきそうである。これも世の中の変化なのだろう。移ろい易いのが人の世とはよく言ったものだ。