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三原淳雄はキャピタルパートナーズ証券の顧問を務めています。
 

2010年06月18日
三原 淳雄

イソップ童話
 

 「アリとキリギリス」のイソップ童話は本当によく出来ていて何度も使える。 
 アメリカがベトナム戦争などでヘトヘトになっているころ、よくこの話をアメリカ人にしては、からかっていたことをまた想い出した。 
 
 「プレイ ナウ ペイ レイター」なんて遊び狂いヒッピーなどやっている世捨て人の若者が多かったが、まさにキリギリス。居間さえ良ければいいと考えているのではないかとその姿を呆れて見ていた。 
 われわれ日本人はせっせと働いて、来るべき冬に備えているのだから、少しは見習ったらどうだ、なんて説教ともつかぬジョークみたいな話でアメリカの友人どもをからかっていたのだが、そのアリさんも折角貯めたドル札の使い道も判らず、だらだらと派手に使いもしないまま、手持ちのドルにも国力も低下してしまった。当のキリギリスはその後改心した様子もなく、ITバブル、サブプライムバブルなど、世界のグローバル化、IT化を逆手にとって相変わらずキリギリスを続けている。 
 
 そして今回はヨーロッパに舞台を移して、再びアリとキリギリスの欧州版が始まった。イソップの時代から人間はやはりアリとキリギリスの二種類いる状態は変わっていないようだ。今回のアリさんはドイツ。何せ趣味は貯蓄と散歩とイタリア人あたりからからかわれるだけあって、今回もユーロ圏の安い労働力を使って域内では有利になったユーロを利用し、しっかりアリさんぶりを発揮していた。つまり作った物を外国に売り、そして稼いだカネは銀行にせっせと預けていたのである。そしてその銀行は域内の一見元気のよさそうで健康になったように見えたギリシャやスペイン、ポルトガルなどにせっせと金を貸していたのである。 
 
 そのカネが回り回ってまたアリさんに戻り、そのアリさんが風光明媚な南欧に住宅を作り買うことで、うまくカネは回っていたのだが、キリギリスの本性は「借りたカネは返さん」という性格までは見抜けなかったらしい。これら南欧の人たちはカネに関しては「カネを貸すバカ、借りるバカ」「同じバカなら借りなきゃ損損」と阿波踊りみたいなことを平気でやる連中だから、やはり世界は広い。 
  
 かてて加えてグローバル化にIT化を利用して、すばしっこい元祖キリギリスのアメリカまで加わってお化粧の方法を教えていたのだから、これらの国々の政府も口車に乗ってしまったのも時の勢いだろう。 
 
 日本もそうだが国民は甘言には乗り易いし、目先きの欲につい釣られるもの。 
 様々な餌をバラ撒かれているうちに、もともと働く気のない南欧の連中は(ここが日本と違い、日本にはまだ救いがあるが)貸した奴が悪いだろうとデモなどで荒れ狂う。 
 いま勃発しているあちらのデモはキリギリスの反乱なのである。 
 
 いま世界をアリとキリギリスに分けて見ると日本、ドイツ、中国がアリ、アメリカ、イギリス、スペインなどがキリギリス。 
 幸い日本は欧州のキリギリスにはカネを貸してはいないが、世界最大のキリギリス国アメリカには中国ともどもどっぷり貸し込んでいる。この落としどころを探っていま米中で人民元を上げる、上げないと騒ぎになっているが、中国にしてみれば折角貯えたドルが目減りするのだから、先に大変な目に遭わされた日本のアリさんの二の舞だけは避けたいだろう。しかし世の中不思議なものでカネも巨額になると借りた方が強い。 
 
 キリギリスの方が楽をするのではアリさんはたまったものではないが、性懲りもなく同じことが繰り返されるのも不思議な話だ。最後はアリが勝つのがイソップ童話だが、それにしてもアリとキリギリスに目をつけたイソップはやはり天才だったな。