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キャピタル・パートナーズ証券
三原淳雄はキャピタルパートナーズ証券の顧問を務めています。
 

2009年05月22日
三原 淳雄

海図なき航海
 

 先日亡くなられた速水元日銀総裁の書かれた本に「海図なき航海」がある。 
 発売されてすぐ読んだ覚えがあるが、何より感心したのがそのタイトルである。 
 本そのものはもう14〜5年も前の話であり、日商岩井の会長から日銀総裁になられる前の本だが、いまの日本は未だに「海図なき航海」を続けているように思えてならない。 
 日商岩井(現双日)の社長、会長もされたほどの方だから、そのタイトルの先見の明は流石である。 
 ちょうどそのころアメリカ人の友人から「日本はまるで大海を漂うくらげ(ジェリー フィッシュ)みたいなもの。透明に見えて透明でもなく、波にふわふわ漂っているだけでどこに行こうとしているかは不明だし、もっと困るのはなまじ図体が大きいために無視も出来ない」とぼやいていたことを思い出した。その日本が世界を困惑させていた大きな図体も縮まり始めた気配があるし、そのうち小さくなって世界が困るような存在でもなくなるのではないかと、今回発表されたGDPと速水さんの訃報と併せ考えると心細くなってもきた。 
海図描きが政府の役目(それが政府の役目だろう) 
 今回の麻生内閣による景気対策など、その典型だろう。額だけは一応それらしく大きくしてみたが、その中身の透明性はいまいちで、なかには何でもいいからこれから考えろ的な発想で予算が組まれ、その予算は数々の基金という名の組織に化けて、官僚たちの絶好の天下り先になりつつあるなど、海図なき航海どころか、空船をどんどん海に流しているようなもの。そこには理念も目的(景気回復?)もない。あるのは票数を稼ぐことだけだろう。基金という名のこれから使い込む道を考える組織などは、まるで借金で貯金しているような仕組みであり、それで株が上がったと錯覚されたら、そのツケは後で大きく跳ね返ってくるだろう。 
 いまの日本に必要なのは将に海図であり、五年後、十年後の日本はこうなりますと、きちんと国民に海図を示すことである。 
 環境が大切だからとエコポイント的な発想ではすぐタネは切れるし効果も一過性だろう。環境・省エネ・省資源・少子高齢化・農業・教育などなどテーマは山ほどある。 
 バランスのとれた国をどのように創っていくか、そのためには国民の資質向上のための教育の充実もあるし、自給率が40%の農業を活性化し、自給率を60%に上げるとか、医療についても行き詰まったいまの医療システムを抜本的に見直すとか、他にサービス産業なかでもITがらみの成長産業の育成など、海図を作る材料はいくらでもある。 
 海図が出てくれば株式市場も当然大いに活気づくだろうし、いまの時価総額(250兆円前後)が倍増すれば、景気は当然よくなってくるし雇用や税収も増える。 
 その昔の所得倍増論のようなものが欲しい。当時は国民も眉に唾をつけながらも、それでも目標に向かってやっていく気になったものである。 
 何れにしても今年は選挙の年、しっかり海図を描ける政治に変えていくには絶好のチャンス。ここを逃すとまた海図なき航海を続けるしかない。株価がここにきてもたついているのも、海図を催促しているのではないか。